車検におけるフェンダからのタイヤのはみ出しに関して

車の検査は国が定める保安基準を満たしている必要があり、この保安基準を満たしているかどうかを確認するための検査がいわゆる車検です。その車検の検査項目の一つに「車枠及び車体」というものがあります。

以下、その内容の抜粋を掲載(出典:審査事務規程|NALTEC 独立行政法人 自動車技術総合機構)。

7-28-1 性能要件(視認等による審査)
(1)車枠及び車体は、、、(省略)

(2)車体の外形その他自動車の形状は、視認等その他適切な方法により審査したときに、鋭い突起を有し、又は回転部分が突出する等他の交通の安全を妨げるおそれのあるものでないこと。ただし、大型特殊自動車にあっては、この限りでない。
なお、次の例に掲げるものにあっては、、、(省略)

(3)次に該当する車枠及び車体は、(2)の基準に適合するものとする。(細目告示第22条第3項関係、細目告示第100条第2項関係)

① 自動車が直進姿勢をとった場合において、車軸中心を含む鉛直面と車軸中心を通りそれぞれ前方30°及び後方50°に交わる2平面によりはさまれる走行装置の回転部分(タイヤ、ホイール・ステップ、ホイール・キャップ等)が当該部分の直上の車体(フェンダ等)より車両の外側方向に突出していないもの。
 この場合において、専ら乗用の用に供する自動車(乗車定員10人以上の自動車、二輪自動車、側車付二輪自動車、三輪自動車及び被牽引自動車を除く。)であって、車軸中心を含む鉛直面と車軸中心を通りそれぞれ前方30°及び後方50°に交わる2平面によりはさまれる範囲の最外側がタイヤとなる部分については、外側方向への突出量が10mm未満の場合には「外側方向に突出していないもの」とみなす。

上記の(2)および(3)の規定が「フェンダからのタイヤ等はみ出し」に関するものです。この中でも上記ハッチングで示した部分の「最外側がタイヤとなる部分については、外側方向への突出量が10mm未満の場合には「外側方向に突出していないもの」とみなす 」という内容について、

「車検で最外側がタイヤとなる部分について、フェンダから10mm未満突出しても問題無い部分はタイヤのリムガードやラベル部分のみ 」

と誤認識している方が結構多いのではないかと思います。

以降で、事の発端や確認した内容等の詳細を記載しますが、結論としては以下です。

「車検で最外側がタイヤとなる部分について、フェンダから10mm未満突出しても問題無い部分はタイヤ部分の全て 」

タイヤ・ホイール販売を行っている、全国のタイヤショップやガソリンスタンドさん等におかれましては、お客様から「『フェンダからタイヤがはみ出してて車検に通りません』って、ディーラーさん(や整備工場さん)から言われたけど、どういう事(怒)」と、クレームを頂き「えっ、、、」という経験をした方が少なからずいらっしゃると思います。

備忘録も兼ね、上記内容をお伝えしたく、ブログに記載しました。

誰かしらのお役に立てれば幸いです。

事の発端

先日、ディーラーさんからTELがあり、

 「Sさんのスタッドレスとアルミホイールのセットですが、ヤマトミさんでご用意したものですよね?Sさんの車を点検しようとしたのですが、フェンダからタイヤがはみ出していて点検整備できません。対応してください。」

との事。こちらは、

 「えっ、、、」

です。内容を聞くとフロントのタイヤ部分がフェンダから1mm出ているそうです。

 「、、1mmですか?、、」

と私が言葉を失っていると、正確には1mmは出ていない、 1mm 「弱」とのこと。

昨今の様々な企業での検査不正等があり、ディーラーさんの親分である運輸局さんからのお達しで、厳格に車検を行っているとのことです。それは良いことだし、このご時世仕方ないのかなと思い、ごねることはせず、分かりましたとお伝えしました。

SさんからもTELがあり、 ディーラーさんから上記内容の連絡があったから、直接ヤマトミに連絡してと伝えたとの事です。確かに、Sさんにスタッドレスとアルミホイールのセットを去年(2021年2月)ご購入して頂きました。その車は2020年夏に発売された国産車です。

発売されたばかりの車のアルミホイール・スタッドレスのセットなので、ヤマトミには装着可能なアルミホイールの情報はまだありませんでした。

車に詳しい方はご存じの方も多いと思いますが、車検の検査項目の一つに「車枠及び車体」というものがあり、 回転部分(タイヤ、ホイール・ステップ、ホイール・キャップ等) がフェンダからはみ出してると車検に不合格になります。

そのため、 タイヤとアルミホイールのセットを販売する際には、車検証で車の型式を確認し、その車へ装着可能なホイールやタイヤを、マッチングガイドやメーカに確認して販売します。

今回はメーカに確認してお客様に販売したものなので、まず、メーカに確認しました。

取扱商品のイメージ画像

メーカへの確認

去年(2021年2月)スタッドレスとアルミホイールを入荷した時の、メーカ営業所の担当者さんとのやりとりを私は良く覚えていました。メーカのマッチング資料を私にも提示いただき、その資料に今回販売したホイールが装着可能である事を私も確認し、その資料をファイリングしていたからです。

その資料を今一度確認し、メーカ担当者さんに、去年(2021年2月)納品してもらったスタッドレスとアルミホイールがディーラーさんから「フェンダーからタイヤがはみ出ている」と言われた旨を伝えると、

 「えっ、、、」

となりました。

その担当者さんも私とのやりとりを覚えていて、 私に提示してくれたマッチング資料を覚えており、その資料で確認したホイールですよねと、お互いにもう一度確認しました。

 「どの部分で、どの位ですか?」

とも確認されたので、 フロントのタイヤ部分が1mm弱出ていることを伝えると、

 「タイヤのどの部分ですか?」

と再度確認されました。どの部分かまでは聞いていなかったので、それは確認してみないと分からない旨を伝えると、

 「タイヤのリムガードやラベル部分は数mm出ていても、確か問題無いんですよ」

との事です。

私は「へー」となりました。タイヤのリムガードやラベル部分が出ていても問題無いことを知らなかったのです(タイヤ含め、 回転部分(ホイール・ステップ、ホイール・キャップ等) がフェンダからはみ出してると車検に不合格と認識していました。2017年6月に、タイヤに関する保安基準が改正され、タイヤ部分のはみ出しのみ緩和されていたのです)。

それでも担当者さんはディーラーさんがダメと言うのなら、多分ダメで、お客様対応として新品で入れ替えるしかないと言っていました。

私はその事実を確認しようとweb検索すると、以下の内容の記事が出てきます。

  • 車軸中心を含む鉛直面と車軸中心を通りそれぞれ前方30°及び後方50°に交わる2平面によりはさまれる範囲の最外側がタイヤとなる部分については、外側方向への突出量が10mm未満の場合には「外側方向に突出していないもの」とみなす。

上記は独立行政法人 自動車技術総合機構さんが規定しているものでした。自動車技術総合機構さんは、国土交通省所管の独立行政法人であり、自動車検査 独立行政法人(※)さんと独立行政法人 交通安全環境研究所さんが統合され、国から自動車の登録に関する確認調査事務の移管を受け、新たに発足した独立行政法人との事です。

※1999年(平成11)、「中央省庁等改革」の一環としてそれまで運輸省が行っていた自動車検査(車検)のうち「検査場における検査」については独立行政法人が行うこととし、同年12月に成立した自動車検査独立行政法人法(平成11年法律第218号)に基づいて2002年(平成14)7月に設立された機関との事。

簡単に言えば、自動車技術総合機構さんは日本の車検制度のトップ機関です。そのため、この規定内容は確かな情報だと思いました。

しかし、何個かの記事には上記内容と共に、「10mm未満突出しても問題無いタイヤ部分はタイヤのリムガードやラベル部分」と記載されているものも見かけます。

 「うーん。。」

となりましたが、ひとまず、ディーラーさんにタイヤのどの部分が出ていたのか確認するためTELしました。すると、

 「フロントの前方30°の位置のタイヤ部分が1mm弱出ています。 」

とのこと。私は、

 「タイヤは10mm未満であれば突出しても問題は無いんじゃないですか? 」

と聞くと、

 「10mm未満突出しても問題無いタイヤ部分は、タイヤのリムガードやSUV系でよく見る突出したラベルの部分です」

とはっきり言われました。

ディーラーさんもそういうのであれば「突出しても問題無いタイヤ部分は、タイヤのリムガードやラベル部分」だけなのかなと思いました。が、念のため、その事が記載されている規定があるのなら、今後の見識のためにも見せてほしい旨を伝えると了解してくれ、提示してくれることになりました。

タイヤが山積の画像

それでも、この規定は自分でもちゃんと確認すべきと思い、 自動車技術総合機構さんのHPを見たら、ありがたいことに「審査事務規定」というものを公開してくれていました。

この審査事務規定は「自動車が道路運送車両の保安基準に適合するかどうかの審査を行うため、次の事項を自動車技術総合機構の理事長が国土交通大臣に届け出たもの」との事。
 ・審査の実施の方法に関する事項
 ・審査結果の通知の方法に関する事項
 ・その他の審査の実施に関し必要な事項

そして、審査事務規定は「自動車の検査において、自動車の構造・装置が「道路運送車両の保安基準」に適合している状態であるかを判断するために必要な内容が具体的に規定されているもの」との事です。

つまり、国が認める車検の規定です。これだと思いました。

私が確認したのは「最終改正 令和 4年 1月 7日 規程第33号」の「7-28、8-28 車枠及び車体」です。 以下、その内容の抜粋を掲載します。

7-28-1 性能要件(視認等による審査)
(1)車枠及び車体は、、、(省略)

(2)車体の外形その他自動車の形状は、視認等その他適切な方法により審査したときに、鋭い突起を有し、又は回転部分が突出する等他の交通の安全を妨げるおそれのあるものでないこと。ただし、大型特殊自動車にあっては、この限りでない。
なお、次の例に掲げるものにあっては、、、(省略)

(3)次に該当する車枠及び車体は、(2)の基準に適合するものとする。(細目告示第22条第3項関係、細目告示第100条第2項関係)

① 自動車が直進姿勢をとった場合において、車軸中心を含む鉛直面と車軸中心を通りそれぞれ前方30°及び後方50°に交わる2平面によりはさまれる走行装置の回転部分(タイヤ、ホイール・ステップ、ホイール・キャップ等)が当該部分の直上の車体(フェンダ等)より車両の外側方向に突出していないもの。
 この場合において、専ら乗用の用に供する自動車(乗車定員10人以上の自動車、二輪自動車、側車付二輪自動車、三輪自動車及び被牽引自動車を除く。)であって、車軸中心を含む鉛直面と車軸中心を通りそれぞれ前方30°及び後方50°に交わる2平面によりはさまれる範囲の最外側がタイヤとなる部分については、外側方向への突出量が10mm未満の場合には「外側方向に突出していないもの」とみなす。

出典:審査事務規程|NALTEC 独立行政法人 自動車技術総合機構

上記の(2)および(3)の規定が「フェンダからのタイヤ等はみ出し」に関するものです。(2)は定性的な説明文です。具体的な (3)を実際の画像(左フロント)で見ると以下の内容です。

左側のフロントタイヤ

上記(3)①の前半部分、

「…車軸中心を含む鉛直面と車軸中心を通りそれぞれ 前方30°及び後方50°に交わる2平面によりはさまれる走行装置の回転部分(タイヤ、ホイール・ステップ、ホイール・キャップ等)が当該部分の直上の車体(フェンダ等)より車両の外側方向に突出していないもの 」

の「…走行装置の回転部分」とは、 図の赤色ハッチング部分の事です。この部分が当該部分の直上の車体(フェンダ等)より車両の外側方向に出てはいけないという事。

後半部分、

「…前方30°及び後方50°に交わる2平面によりはさまれる範囲の最外側がタイヤとなる部分については、外側方向への突出量が10mm未満の場合には「外側方向に突出していないもの」とみなす」

とは、 図の赤色ハッチング部分 で最外側がタイヤとなる部分については、突出量が10mm未満の場合には「はみ出していてもOK」ということです。

この規定には、 web検索 の記事で出てきた「…最外側がタイヤとなる部分については、外側方向への突出量が10mm未満の場合には「外側方向に突出していないもの」とみなす 」という内容 だけで、タイヤがはみ出しても問題無い部分は、”タイヤのリムガードやラベル部分の突出のみ” なんて、どこにも記載はありません。

私はヤマトミの前職の会社員時代に独立行政法人さんと仕事をすることが多く、色々な規定類を見たり作成したりしていたので、 タイヤがはみ出しても問題無い部分 が ”タイヤのリムガードやラベル部分の突出のみ” という重要な内容であれば、 「但し書き」や「詳細はXXを確認すること」 等の記載がされているはずだと思いました。

これは、直接確認するべきだと思い、 自動車技術総合機構さんに問い合せしました。

販売・サービスのイメージ画像

関係機関への確認

この規定の担当部署は自動車技術総合機構さんの検査部・検査課というところでした。

「7-28、8-28 車枠及び車体」の車検規定の内容について、「タイヤがはみ出しても問題無い部分は、”タイヤのリムガードやラベル部分の突出のみ”」なのか問い合わせを行いました。

この規定の追加の背景等、丁寧な説明とともに、最終的な回答として「タイヤのリムガードやラベル部分の突出のみでは無く、 サイドウォール等、タイヤ全てです 」との事。やはり審査事務規定の文面どおりでした。

ディーラーさんにこの事実をすぐにお伝えしようとしましたが、ディーラーさんの親分は運輸局さんです。自動車技術総合機構さんの審査事務規定は国が認める車検規定ですが、念のため運輸局さんも「タイヤがはみ出しても問題無い部分は、 サイドウォール等、タイヤ全て 」との認識なのか確認する必要があると思い、運輸局さんにも問い合せを行いました。

回答は、「サイドウォール等、タイヤ全て 」です。また、その内容をディーラーさんに伝えても良いか聞いたところ良いとの事。 確信を得ました。

そんな確認作業をしていると、ディーラーさんから規定を印刷したから取りに来てください、とTELがあったので、まずはその規定を確認しようと思い、ディーラさんに伺いました。

ディーラーさんに着いて、話をしたのは工場長さんでした。で、その工場長さんに提示されたのが、なんと自動車技術総合機構さんの規定でした。私は、

 「えっ?規定ってこれですか?」

と言ってしまいました。ディーラーさんが「突出しても問題無いタイヤ部分は、タイヤのリムガードやラベル部分」という規定があると言っていたので、何かしらそういう文言があるものを提示してくれると思っていました。そして、そういうものを提示されたとしても、上記確認したことをお伝えしようと思っていたので拍子抜けです。

そこからは、その規定を自動車技術総合機構さんのHPから入手し、内容を問い合わせた回答が 「タイヤのリムガードやラベル部分の突出のみでは無く、 サイドウォール等、タイヤ全て 」である事、 運輸局さんも同認識であること、疑問があるなら運輸局さんに確認ください等、もう私の方が一方的にしゃべりました。

工場長さんは、保安基準が改正された当時「突出しても問題無いタイヤ部分は、タイヤのリムガードやラベル部分」と聞いていた等仰っていましたが、最終的に、

 「、、、弊社の方でも確認させてください。」

との事。

後日、工場長さんがヤマトミに来店し、

 「本社を通じて確認しました。仰っていただいた通りでした。大変申し訳ありません。」

 「点検作業はスタッドレスのままで行わせて頂きます。」

との事で解決しました。

まとめ

「フェンダからのタイヤ等はみ出し」に関し、 車検の検査項目の一つ「車枠及び車体」 で規定されている「最外側がタイヤとなる部分については、外側方向への突出量が10mm未満の場合には『外側方向に突出していないもの』とみなす 」という内容について、

「車検で最外側がタイヤとなる部分について、フェンダから10mm未満突出しても問題無い部分はタイヤのリムガードやラベル部分のみ 」

では無く、以下となります。

車検で最外側がタイヤとなる部分について、フェンダから10mm未満突出しても問題無い部分はタイヤ部分の全て

日本の車検制度のトップ機関である「独立行政法人 自動車技術総合機構」さんに確認した結果なので間違いありません。

私も規定類の検索・確認や関係機関への問合せなどで半日は使ってしまいましたが、なによりも「お客様への信頼回復」が行えて大変良かったです。

良い勉強・経験になりました。

後記

私も色々調べて分かったのですが「車検でフェンダから10mm未満突出しても問題無い部分はタイヤのリムガードやラベル部分のみ 」という誤認識やweb記事があるのは、「道路運送車両の保安基準」にこのような内容が記載されているためなのかなと推測します。

が、車検の規定は自動車技術総合機構さんの審査事務規定です。再掲になりますが、 審査事務規定は「自動車の検査において、自動車の構造・装置が「道路運送車両の保安基準」に適合している状態であるかを判断するために必要な内容が具体的に規定されているもの」です。

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